2012年1月 1日 (日)

バカの見る夢

 緑のさざ波が、広い牧草地を駆け抜けていく。

 風は馬のたてがみをさらって、透明な空へと抜けていく。

 風にはどこか潮の香り。

 海の見える丘の上、放し飼いの馬がいて、豊かな作物が実り、人々の歌声と笑い声がこだまする。

 私は旅人で、風の様に空からその牧場を俯瞰する。

 子どもの頃から、ずっと私が抱いてきたイメージだ。 

 自由な環境で動物がいて、太陽の光と水だけで作物が育ち、その恵みを分かち合う広場があって、無限のエネルギーが循環する。

 今、私が実現したいと願う夢。

 

 クリスマス・イベントは無事に終わった。

 牛舎7号の中には、青い卵がまいていった紙吹雪が本物の残り雪のように白く光っている。掃き掃除をしていると、ステージの隅の暗がりに、何かの気配を感じた。

 見ると、緋色のリボンと姫リンゴいっぱいつけたこんもりと三角帽子の様な、鉢植えのコニファ。鉢には赤い布を巻いている。

 冷たくて暗い冬の牛舎7号の中に置き去りにすると枯れてしまうので、そっと抱えて外に出した。思ったより軽かったので水をやる。

 このコニファ、去年の11月、牛舎8号オープンのお祝いに蛙の友達の花屋さんが送ってくれた大事なものだ。

 鉢植え植物を育てるのは大変だ。日当たりに気をつかい、水をやるにしてもやり過ぎないように注意して…と気をつかっているのに、その成長は遅々として日々の目にはわからない。

いつしか、その存在を忘れ、気づいた時には、枯れている。

 だからといって、いきなり地面に移植すると、今度はいつの間にか雑草の陰に埋もれ消え、どれがどれやらわからなくなって、結局、草刈り機で十把一絡げに刈られてしまう。

 

 人の描く夢も同じ毎日、気にかけて育てていかないと、いつの間にか枯れるか消えるかしてなくなってしまう。

 

 

 ファームリゾートとして生まれ変わろうとしている鶏卵牧場。

 30数年前、循環型農業を目指して、ひら飼い鶏卵を始めた村石社長。ここは、生き物が共生できる未来型のモデル・ファームへと変貌を遂げる可能性が大いにある。

 

 311の震災と原発事故をダメ押しに、今までの大量生産・大量消費社会から、次の世代を視野に入れた自己完結型の循環型社会へと価値観が大きく変わりつつある。

 既存の農業が、グローバル企業と傘下の大企業に乗っ取られつつある中、地域レベルでの農業をこれからも続けていくためには、持続的な循環型社会を目指していく他はない。

 簡単に言うならば、オーガニック(無化学肥料・無農薬栽培)な作物や動物を育てられる田畑や牧場があって、それを販売する市場や食堂、食品加工場があり、それらの設備を自然エネルギーで運転することができる地域社会を創ること。

その中で、作物の付加価値を高めていきながら、次の世代を育成していく必要がある。

 

 私は、それをまずは鶏卵牧場から実現したい。一つのモデル・ファームを創り、そこからモデル地域(村や町)へ、それは今までのように拡大ではなく、家族単位へと縮小発展し、最後は、種々様々な小モデルが世界中へ拡散する。

 

 日本獣医生命科学大学の松木先生の講演で、ヨーロッパに点在する自己完結型の循環型農場がいくつも実際に存在することを知った。

 私自身も、家族単位で、自給自足かつ文化的な生活をしているファーマーをオーストラリアやニュージーランドでいくつも見てきた。

 そして、それらは、「テクノロジー」が生まれる前、「サスティナブル」や「パーマカルチャー」等の流行りの言葉が生まれる前から、日本人が一番得意としてきた暮らし方だ。

 

 

 では、具体的にどうするか?

 有機農業に取り組んでいる人は、潜在的に多い。

 いわゆる慣行農法(実際はとても歴史は浅いと思うのだが)で農業を営む人達も、本音では、化学肥料や農薬を使いたいとは思っていない。

「農業だけでは食っていけないので、兼業農家にならざるを得ない。そうすると、有機農業で本来掛けなけれないけない時間はなくなるので、化学肥料や農薬に頼らざるを得ない。化学肥料を使えば使うほど、虫が湧き、農薬の量も増え、悪循環に陥る。」

地元の慣行農家さんが、渋い顔で言っていた言葉だ。当然、孫には、無農薬の野菜や果物を与える。

 

後継者の育成も大きな課題で、農地法の五反歩条項が大きなネックになっている。が、村石社長のような大農家や行政区が大きく農地を借りて、小区画で貸すこともできる。

都会から、新規就農したいと思っている若者は結構多い。

都会から田舎や農業に幻想を抱いてくる人達が多いのは事実かもしれないが、幻想を抱くこともできない現状の方が問題だ。

牛舎6号は、農業の大型機械を保管、修理したり、技術を共有、或いは新規就農者への技術指導したりできる場所にしたい。

課題は山積だが、御宿町も、有機農業や新規就農者受け入れへの取り組みを熱心に始めている。二人三脚で進んでいきたいと思っている。

 

農業もさることながら、エネルギーの自給自足も重要だ。

鶏卵牧場の様に、毎日、大量の家畜糞尿が定期的に出るところでは、バイオガス・プラントが有効だ。香取市の和郷園、埼玉県の小川町、岩手県の葛巻町が、実践・成功しているモデルとして有名だ。

バイオガスを、タービンで発電すれば、毎月、牧場の電気設備を運転して尚、東電に売ることだってできるだろう…。但し、東電が買い取ってくれればの話だが。

伊藤さんが発起人の「いすみのエネルギー自立を考える集い」の中で、手塚さん始め電気に詳しい人々に教えてもらったところ、「電気の自給自足」のネックは、

l 送電線を東電が牛耳っていること。

l 交流であること。

だそうだ。

なので、市民発電所を仮に作るとすれば、家電や機械設備は直流用のものかインバーターを使い、なるべく発電所と使用箇所の距離を短くして、既存の送電線を使わないようにすることが重要だ。

 

いきなり、大規模なものは無理として、誰でも出来そうな簡単な方法を考えてみた。

「鉄腕ダッシュ」という番組の中でソーラー・カーという企画があった。

軽の箱バンの屋根にはソーラー・パネル、中にはぎっしりバッテリーを積み、地図上を一筆書きで日本一周をしようという企画だ。

 

例えば、廃車になった軽バンをもらってきて、自宅の横に停めておく。車内にはソーラー・カーの様に、バッテリーを可能な限り積み込み、配線する。車だけでなく、家の屋根にもソーラー・パネルを載せて、車のバッテリーに接続する。

直流を交流に変える、シガーソケットに刺すタイプの数千円のインバーターを車の部品屋で買ってきて接続すれば、今ある家電製品・電気設備を使うことができる。

日照不足で電力が足りなくなれば、エンジンを回せばいい。

ソーラー・パネルやバッテリーに費用がかかるが、うまくローンを組めば、毎月の電気代で相殺できる。

他にも、電力に頼らないミニマムでより効率的な技術はいくらでもある。脳のない蟻ですら、キノコを育て、空調設備のある巨大マンション(蟻塚)を建てるのだ。

 

原子力発電なんかは、利権と核兵器と次世代の汚染の為に存在している悪魔の技術としか思えない。

技術的にも、空き缶と備長炭で出来る電池の方がよっぽど洗練されている。重く冷たい金属が分解して、最も軽くて刺激的な電気になるのだ。そこには、宇宙の神秘すら感じられる。

人間の考える「テクノロジー」は、深いところで哲学と結びついていなければ、使用するべきではないと思う。

 

 

ひら飼いの鶏と、牛がいて、牛舎8号という直売所と有機農園ができた。

現在、建築中の食堂が完成し、将来、バイオガスなどの糞尿や作物残渣をエネルギーに変える設備が出来たとしたら…。

そこは、まだまだ完全ではないにしろ、自己完結・循環型のモデル・ファームとなる。

そこで、自由な環境で育てられた動物に触れられたり、馬や馬車に乗って遊ぶことができたり、安全でおいしい食材を使った料理を食べて、泊まることもできるとしたら…、

そこは、本当の意味での、次世代「観光」ファームとなるだろう。

 

 

牛舎8号オープンの日から一年間、大事に育てられた鉢植えのコニファ。

狭い鉢の中、このままでは枯れてしまうと、年末のある夜、まどろみの中、急に思った。

翌日、プロムナードのコンクリートにカッターを入れ、鑿岩機で壊した。スコップで可能な限り穴を掘り、岩を取り除いて、コニファを植えた。

真砂土を入れ、レンガで囲う。

いよいよ、待ったなしの2012年が始まった。

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明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

 

 

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2011年12月27日 (火)

牛舎8号クリスマスLIVE

2回目の牛舎8号クリスマスLIVE

 前回同様、蛙のプロデュース。

 去年のクリスマスLIVEは牛舎7号のこけら落とし。早くも一年が経つ。

 今回は、けん玉ちばちゃん青い卵 に加えて、せんげんやまさんの紹介で、氣天流「獅子・ひょっとこ会」の江澤さんが獅子舞で参加してくれた。

 当日は例年通りのクリスマス寒波。氷の風が体中に服を通して突き刺さる。

 客足も遠のくかと思われたが、開始時間間近になって、続々とお客さんが来てくれた。これぞ、御宿タイムだ。

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 飲食にはお馴染みの「四季菜」がタラモ・ピザとウィンナー、「伝説の獣医」なかのまきちゃんの妹分「TULSI」は、有機野菜の豆乳クリーム・シチュー・クスクス添え。「ネココロ」さんは、病み上がりのため、残念ながら参加できず。

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 石油ストーブと火鉢、せんげんやまさんの「焼き芋ロボ」がフル稼働。火にかじりつくような大人達と早くも興奮気味で舞台にかじりつく子ども達。

 11時からは、江澤さんの若獅子の舞い。

 私の拙いナレーションの後に、拍子木の鋭い響き。

 寒くてざわついていた7号の舞台上に、突如金色の稲妻が躍り出た。

 と、思うや、雷の様な歯音をたてて観客を威嚇する。

 獅子舞の圧倒的な迫力の前に、怯えて逃げ出すことも悲鳴を上げることも出来ず、ただただ食い入るように獅子を見つめる子ども達。

 「かっこいい~!」

 「すごい…!」

 ようやく、我に返った子ども達の歓声が会場にこだまする。

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 60歳を過ぎている江澤さん、その躍動感は、若鹿のしなやかさをあわせ持つ力強い若獅子そのものだ。

 ひとしきり遊んで、若い獅子は眠くなる。

 神獣から一転して、耳を動かしたり、足で頭を掻くコミカルで動物じみた所作に一同大喝采。

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 そこで、大黒様の登場。

 中身は、実はけん玉ちばちゃん。大黒様の衣装をまとい、お面をかぶっての登場だ。

 慣れたもので、ぶっつけ本番だというのに、愛嬌たっぷり、おっかなびっくり若獅子に近づいて、扇子であおいで獅子を起こす。

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 口から七色の帯を出すパフォーマンスには、帯が長すぎて、お面の下で少し戸惑い気味のちばちゃん、いや、大黒様。

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 次に、子どもを二人、大黒様に舞台まで導いてもらって巻物を披露する。

 お世話係さんことナオミさんが、何日も悩み練習しながら書いてくれた心のこもったメッセージ。子どもにわかりやすいようにひらがなにした。

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 実は、私もこんなに近くで獅子舞を見るのは初めてだ。江澤さんは獅子舞をやる日の朝は必ず海に入って禊をする。その気合に裏付けられた迫力は、口で説明しなくても、十分子ども達にも伝わったようだ。

 先日の一周年記念でバリの4つの神々が入神し、更には金色の獅子に舞ってもらったことで、牛7の手作り舞台は、私には、ますます神々しく輝いて見えた。

 

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 続いて、大黒様のお面をかぶったままのちばちゃんが、眼鏡を片手で押さえてのけん玉パフォーマンス。

 お面をとって、

 「実はちばちゃんでしたぁ~。」

 と、登場。

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 去年、けん玉検定を受けた子ども達はお待ちかね。手にはマイけん玉。

 純和風みたいだが、フランスのおもちゃだというけん玉。

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 けれども、ドラえもんにお風呂の椅子にクリスマス・ツリーにと自由に変貌する未来のけん玉に国境はない。

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 けん玉一つとしゃべくりで、こんなにも人を沸かせることができるんだなぁ…とただただ感心。感心を通り越して尊敬の念まで沸いてくる。

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 江澤さんもちばちゃんも、本当に一流で、いつもニコニコ、奢りもてらいもない、本当の意味での芸能人。

 本当に芸を愛しているんだなぁと見ていて気持ちよかった。

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 けん玉で白熱した後は、昼休み。

 タラモピザにクスクスに、生産者さん達のお重の大盤振る舞いに、お腹いっぱい幸せいっぱい。

 が、食後、牛舎でブラブラするには寒過ぎて、またまた駐車場の車が減っていく。

 破格の値段とはいえ、入場料の掛かる「青い卵」の公演に、寒波をおしてまで人が来るのか不安になった。

 が、それも杞憂に終わる。

 ひいた波が寄せ返すように、お客さん達は戻ってきた。

 御宿の子ども達には、「青い卵」の摩理さんYAMAさんは憧れであり、伝説だ。

 ドリフや吉本新喜劇のようにお決まりのパターンにも全力で突っ込み、のめり込んでいく子ども達。

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 ただ、青い卵の違うところは、彼らは笑わせるべくしてつくられた人工のギャグを使わない。本人はいたって真剣なのに、周りから見るとホッとしたり、プッと吹き出してしまう、そんな日常生活の一場面を再現しているに過ぎない。

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 言い換えれば、「青い卵」が演じているのは、舞台の前にいる大勢の観客達。自分達の鏡であることに気づかずに、自分自身の姿を見て、他人事のように大笑いしている観客が、空っぽのステージの前にいる。

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 パフォーマンスのみならず、子ども達のリアクションにもクスクス笑う大人達。それも舞台の一部のようだ。

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 去年も書いたが、天真爛漫で少女のような摩理さんは、どこへいっても子ども達に人気がある。一方、大真面目で哲学者。普段から、CLOWNの生き様を体現しようと生活しているYAMAさんは、「摩理さんは太陽で、僕は月だ。」と言っていた。

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 太陽があるから輝ける月と同様に、太陽も月があるから輝ける。

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 今回は、牛舎クリスマスバージョンで、笑いの中にも心に沁み入るものもあり…。

 お客さんにも喜んでもらえたが、私自身にも最高のクリスマス・プレゼントとなった。

 

KITAさんが撮った秀逸な写真見られます↓

牛舎8号クリスマスLIVE写真 KITAさん撮影

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2011年12月 2日 (金)

バーでタベルナ

 「ここを直売所にするんだ。」

 牛舎8号ができる前、改装前の牛舎を真っ先に見に来てくれたのは、スペイン人カメラマンのダビドだった。

 コンクリートの床や、牛を閉じ込める頑丈な木の扉には、カビカビに風化した牛糞がこびりついており、外壁に張りついたビニールやベニヤの残骸が、未練がましく風にバタバタと揺れている。

 錆びたトタン屋根からは夜空の様に光が漏れ、床には水溜まりができている。

 かつては、牛が餌を食んでいた餌槽の底には、錆びた釘やプラスチックの残骸が散らかっている。

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 「ここを直売所にするんだ。」

 私は、ダビドの方を見ずに、そうくりかえした。

 呆れ顔でため息をつかれるか、眉間に皺を寄せて考えなおすよう懇々と説教されるかのどちらかと思っていた。

 ところが、彼は感嘆の声をあげるや、興奮して歩きまわり始めた。

 「すごい!!ここは、まるでヨーロッパのMercato(マーケット)みたいだ!」

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 半ば途方にくれていた私を、彼のその豊かな想像力がどれほど勇気づけてくれたことだろう。

 

 その時から描きつづけてきた牛舎8号のイメージは、オーガニックの農産物があって、アートが混在していて、円形劇場のようなエンターテイメントな場があって…、

人々が憩えるカフェがある。

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 現在の牛舎8号の台所はクリーン・センター(ゴミ集積所)からもらってきた流しに、元々牛の為にあった井戸水の水道から簡易的にホースを引っ張って蛇口をつけただけのものだ。

 鋳物のガスコンロやカセットコンロもあるが、燃料費節約と充分な火力の確保の為、薪を使って、カマドで調理することが多い。

 まな板だけは、上等な充分な厚みのイチョウの木で、猪一頭でもさばけるだけの大きさのものがごろごろある。

 そんな台所なので、イベントの際の賄い時は、まるで野戦病院のような様相を見せる。

 

 が、そんな戦場にこそ一流のシェフはいる。

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 ドラム缶を切ったり、溶接したりして、銀色にピカピカ光る焼き芋ロボットを作り上げ、毎週日曜日に焼き芋を販売しているせんげんやまさんは、中でも指折りの名コックだ。

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 魚をさばき、毎月第2日曜日には燻製をつくる。そんな男の料理だけでなく、みそ汁から煮魚から、そこにあるもので何でもスピーディに作ってしまう。作るだけじゃなく後片付けも完璧にするのだから、ホンモノだ。

 みちよお母さんにしろ、出雲神社のえみこさんにしろ、マダム・エバタにしろ、みな料理上手の振る舞い好きなので、生産者さんが集まる場であれば、会議にしろ、イベントにしろ、重箱が並んでおかずの花が咲き、その賑わいたるや、盆か花見か正月か。

 

 人々が集えば、大きな楽しみの一つは食べること。

 1127日に行った芋煮会は、芋堀り体験とセットの「食」のイベントと言っていい。

 30人のお客さんをたった一日もてなすために、あの野戦キッチンで、まる2日間、せんげんやまさんを中心に何人もの人が準備をしてくれた。私は何の役にも立たなかったが、みんなの一生懸命を見ていたので、客であれ、誰であれ、文句を言わせないようにしようと一人ギラギラしていた。

 が、そんな心配はまったく無用で、主催者の御宿町商工会青年部もお客さん達もみんな終始笑顔で大満足してくれた。

 

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 (「食」というものは、もしかして、食べる方より人に振る舞う方が幸せになれるのかな?)

 と、ふと思った。

 

 親愛なる生産者の皆様だけではない。

 ビストロ・クリハラという 料理に特化したホームページまで作った大ちゃんこと栗原大輔氏。

 食えない喰えないと言われてきたハロウィンかぼちゃを見事に50人前のおいしいポタージュに仕上げたばすくん。

 

 「(椎茸の)アワビの刺身」、「黄金卵」等々…、安価な食材を次々と高級食材に変える天才でれすけ氏。

 野を見渡せば、他にもたくさん、食のアーティスト達が、刄(包丁)に磨きを掛けて待っている。

 

 …ということで、カフェを作り始めることにした。

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 牛8カフェでは、オープン後は、そんな皆様方に、ぜひ、「食のイベント」を開催して大いに腕をふるって頂きたい(と勝手に思っています)。

 やり方は、今までのイベントと同じ。

  •  食のテーマを考える
  •   旬の食材と相談してメニューを決める。
  •  限定何人かにして、完全予約制にする。
  •  チラシやHPで客集めをする。
  •  当日、大盛況でてんてこ舞いになる。

 主力の、ひら飼い鶏の産みたて卵は、オムレツでも目玉焼きでも何にしてもおいしいが、せっかくだから、やっぱり卵かけご飯(これは私でもできそうだ)。醤油やトッピングにもこだわりたい。

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 ゆくゆくは、自社農場の牛肉も使いたいが、マクロビオティック・メニューの日をつくってもおもしろい。

 牛8オーガニック野菜は言うまでもなく、うみやさんや滝口さん、漁師の直売所「いさばや」店長に就任した中村船長との「海とのコラボ」も楽しみだ。

 

 コーヒーにもこだわりたい。

 アフリカの友人から顔の見える取引をしたい。フェアトレードとはどの程度からいうのだろうか疑問だ。スターバックスですら、生産者の生活保護を謳っているのだから(笑)。

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 その辺のことも自分が勉強しながら、コーヒー豆生産者についてのドキュメンタリー映画なども上映していきたい。

 

 牛舎8号は夜が素敵だ。

 スターダストがよりメタリックになって、オレンジ・オペレーションが緋色に光る。

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 全てが魔法に掛かったようにガラリと雰囲気が変わる。

 飲食の許可をとれば、アルコールも出せる。実は、ダビドとも、

 「バーがいいかも…。」

 なんて話していたが、深夜営業は難しいので、しばらくは、イベント後の、主催者達の秘かな楽しみとなるだろう(?)。

 

 翌朝…、少し酔いの残る頭で悩む。

 谷津田の炊き立てご飯にひら飼い鶏の卵かけご飯、牛8野菜入りの自家製味噌汁。

 それとも、

 Oto(手作りパン屋)のパンにアフリカのコーヒー、目玉焼きと小糸在来のビーンズにジビエのウィンナーでイングリッシュ・ブレックファスト?

 どっちにしようかなぁ…。

 そんな幸せな選択で始まる日常。

 何にも怯えずに済む、そんな普通の世界にしていきたい

 

 

スペイン語

Bar(バル)=バー

Taverna(タベルナ)=居酒屋

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2011年11月 8日 (火)

牛8ハロウィン! 一周年記念!!

Why the chicken cross the road(なぜ、鶏は道路を横断するか)?

というの、アメリカ人の誰もが知っているクラシックなナゾナゾだそうだ。

 

 人はよく、他人の行動に対して「なぜ?」「なんのために?」と、知りたがる。

 それは、本当の理由を知りたいわけではなくて、自分の頭の中の範囲内に、その人の答えをカテゴライズすることで、自分自身を安心させていると感じる時がある。

 言い換えれば、他人の行動や存在に、手持ちのラベルを貼っていくことで、未知なるものへの恐怖をなくすことができる。

 

 私は、未だに自分がナニモノなのかわからない。

 あの伝説の獣医なかのまきこちゃんに

 「たくちゃんは天才だ。」

 と、最上級の褒め言葉をもらったが、(恐らくはまきちゃん自身にも)何の天才だかさっぱりわからない。

 が、そんなわからない自分が好きだ。

 

 自分がナニモノかを知りたいというのは、人間の本質的な欲求のようだ。

 ナニモノかを知りたいということは、ナニモノかになりたいという憧れでもある。

 私は、可能ならば、山賊か海賊になりたい。

 ターゲットは、自分達よりも圧倒的な財力と武力を持ったサムライや商人達。

 奪った金銀財宝で、東京スカイツリーをホームレス専用の高級マンション、スカイツリーヒルズレジデンス に変える。

 

 そんな人間の本質的な欲求を叶えるイベントが牛舎8号で行われた。

  が主催の「牛8ハロウィン・パーティ」だ。

 大人も子どもも自分の好きなキャラクターに仮装する。

 単なる遊びなのは、もちろん承知…

 

 イベントでは、「Trick or treat?」の前に仮装コンテストも行われた。

 

 審査員は、栗原大輔、井上真樹夫、東裏ゆき、魅酒健太郎、たべけんぞう、木倶知のりこの6名が引き受けてくれた。

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 精密画家の大ちゃん(栗原大輔  )は、前々からこのイベントを楽しみにしてくれていて、ルパン三世で石川五右衛門の声を演じていた井上氏を推薦、美人漫画家のゆきちゃんにも声を掛けてくれた。

 

 ちなみに、大ちゃんは坂本龍馬、井上さんは石川五右衛門、ゆきちゃんはインディアンの娘(?)、健太郎さんはルパン三世のジゲン、けんぞうさんは女装(??)、のりこさんはコドックというバリの蛙キャラ(???)。

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ぺー、ぱーではありません。カイロプラクティックの長田先生夫妻。

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 MCには、牛舎のスタアユミコさん。ものの15分、鏡に魔法を呟いて、芸能人に化けてしまった。

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蛙、NORI、ゆみこの3人(?)の魔女達による魔法のジュース!

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 コンテストのエントリーは子ども限定にも関わらず、70数名が参加、保護者(のつもり)の大人も含めるとえらい数の魑魅魍魎が牛舎の内外を徘徊した。日本版だけあって、一反木綿(いったんもめん)の姿も見える。

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 これから毎年、一年に一回、牛舎で和洋折衷の百鬼夜行が見られるようになる…かもしれない。

 そして、縁の下の力持ち、駐車場係を勤め上げてくれたばすくんさん、来年は、なにかビックリな駐車場係に変身する!??

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 私の仮装はキャプテン・ハーロック。言うまでもなく、井上真樹夫さんが声優を務めていた銀河鉄道999のキャラクターだ。

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 …実は、TVでは見た記憶がない…。

 

 だが、本物のハーロックで口パクという贅沢な経験を通じて、一瞬ではあるが、孤独で冷たい宇宙空間を旅する船長という貴重な体験をさせていただいた。

お約束写真。

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 …本物の私は、続く戦に打ち破れ、荒野へと落ちのびた前線将校だ。傾きつつある本国からの兵糧で細々と食いつないでいる。

 けれども、荒野に建つ廃屋の様な砦で、地平線と星ばかり見て過ごしていくうちに、どこからともなく人々が集まってきて、長旅の果て、ここを住まいにと荷を降ろした。

 新しい家族達は、荒野に無数に散らばる「金属のゴミ」を拾い集めて、その砦を修繕していった。やがて、その廃屋は宇宙をも旅することができる宇宙船へと組み上がっていく。

 機関部にはオレンジ色の炎が灯る。 

 そんなこんなで、宇宙船の操作方法も未だにわからぬままに一周年を迎えることができた宇宙船牛舎8号。

 一周年記念イベントには、木倶知のりこさん、猪野尾さん率いるグンデル神楽クスモサリ。

 

 実は、ハロウィンの時、のりこさんが化けていたコドックは、この為の伏線だったのだ。

 一年前のオープン前からの片想い。ようやく叶った牛舎での公演だ。舞台作りにも気合が入る。

 牛舎7号の舞台は、ハロウィンのポップでホラーな雰囲気から、一転してバリの片田舎に建つ寄り合い所へと変貌し、クスモサリ・メンバーの飾り付けにより、いつでも「4つの神々」を迎え入れられる祭りの場へと昇華した。

 

 当日は、朝から雨。11月にも関わらず蒸し暑い、恐らくは、バリの神様達にとっては寒過ぎない気候。

 

 8号では、TOLAのピアノとフルートが雰囲気を盛り上げてくれる。

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 足元の暗い牛舎で、雨降りの夕方からスタートという悪条件にも関わらず、グンデル神楽には100人近い人々が見にきてくれた。

 

 牛舎8号オープンから一年を掛けて、牛舎7号の舞台は、神々の祝福を受けて、ようやく魂が宿った

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Why the chicken cross the road(なぜ、鶏は道路を横断するか)?

 

 答えは明快だ。

 

To get to the other side.(向こう側へ渡るため)」

 

 理由なんて必要ない。

 

 

 

 牛舎8号、おかげさまで一周年を迎えることができました。

 鶏卵牧場の村石社長、いつも私に大いなるきっかけと援助を与え続けてくださり、本当にありがとうございます。

 お世話係さん、あなたなしでは牛舎8号は存在しません。本当にいつもありがとうございます。

 けんぞうさん、私と同じ誕生日。オープン前からいつも味方でいてくれました。

 みちよおかあさん、おとうさん、アミーゴさん、せんげんやまさん始め、生産者のみなさん、いつもどこか調子悪いと言いながら、どんだけパワフルなの!?というくらい元気で便りになるみなさん。本当に感謝です。

これからも…、よろしくお願いします

写真提供 でれすけ氏

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2011年10月 3日 (月)

ONJUKU まるごとミュージアム

 一枚一枚が岩の様に重い。

 牛舎8号の一画を占める何十枚もの銘木。

 それを一つ一つ、ギャラリー回廊や牛舎7号に移動させていく。

 淀んでいた空気が一気に流れ出し、牛舎の中を風が吹き抜ける。それまでの暗がりに光が入り込む。

 銘木を移動させ、生まれ出たスペースを新たなる創造空間に作りかえる。

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 106日から始まる御宿まるごとミュージアムでは、その空間に「たべけんぞう」の「スター・ダスト」シリーズを配置する。それを取り囲む壁際の銘木群は、巨大な石像のように、その不死身の鉄の塊を睥睨する。

 そして、その一枚一枚異なる樹肌には、栗原大輔 のノスタルジックな乗り物の精密画が時間と空間を無視して顕れる。

 昔懐かしい乗り物が周囲に思い出の様にランダムに浮かび上がる中、鉄屑から新たに命を吹き込まれたスターダストが命の灯火を青く燃やす。

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 ゆくゆくは、そこを画廊喫茶の様にしたいと思っている。

 厨房は、私が東京で建築屋時代に学んだノウハウをフルに活かして、なんとしても作り上げたい。

 生みたてのひらがい卵の卵かけご飯やオムレツを始めとした卵料理のレシピはいくらでもある。地元野菜の漬物(トッピング)や汁物。毎週何曜日かはマクロビオティック・メニューにしてもいい(肉牛もいる鶏卵牧場でマクロビ・メニューというのは斬新だ)。

 腕のいい料理人は、お昼時に牛舎8号を訪れるといくらでも出会うことができる。

 コーヒーは、私の知り合いからウガンダの有機コーヒー豆を仕入れる。もちろん、フェア・トレードで。

 自分達で作物を育て、調理し、人々に振る舞う。そんな自己完結型の農産物直売ギャラリー&カフェを創っていきたい。

 重い一枚のケヤキ板を背骨で垂直に持ち上げながら、そう思った。

 自分よりはるかに重い、化石のような銘木が無数に立ちはだかっている。

 それらを一枚一枚動かしていく必要がある。

 板が倒れてくれば、自分も無事には済まない。

 やるべきことは無数にある。


 谷津田再生作業は、ようやく脱穀にまで至ることができた。

 稲刈りには、地元商工会青年部、東京から来てくれた友達始め、多くの人達が手伝いにきてくれた。

 お昼には、牛舎で子牛のカレーや猪肉の煮込みを振る舞った。残暑厳しく、剛ちゃんからもらった裏成りのスイカが喉にしみわたる。

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 グングンと音を立て、まばらに実った稻束を飲み込んでいくコンバイン。

 見るからに収量は少なく、吐き出された藁束も細くて頼りない。

 今年育ったお米だ。

 話題は自然と放射能汚染に向かう。プルトニウム汚染が今更ながら報道され、福島のお米からは当然、基準値を上回る放射線量が測定された。千葉のいくつかの街にはホット・スポットが存在する。そんな中、奇跡的に数値の低い夷隅郡市。

 今のうちに手を打って、安全性を武器にしようという提案が手塚さんから牛舎8号になされた。元原発エンジニアの原さんの協力の元、40万円前後の放射線測定器を有志で購入し、個人単位で測定しようという案だ。最近、出回っているガイガーカウンターとは違って、空間線量だけではなく、その物質の放射能汚染を測定することができる。

 「もし万が一、測定値が基準値を上回っていたらどうなるか?」

 予想される最悪の結果が出た場合、どうすればいいのだろう?

 食うことも生産することもできなくなる。

 ひょっとして、知らない方が幸せなのかもしれない

 だが、重要なのは、次の世代にどんな世界を残していくかだ。

 私達は、クソを垂れ流しておいて、子ども達にケツを拭かせるような世代にはなりたくない。

 

 結果がどうあれ、今は、まず事実を知ることが重要だ。

 放射能にまみれた、墓石の様に重い銘木は、たった一人ではびくともしない。

 

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2011年9月 7日 (水)

いのちだらけのまつり

 山羊のキッドが子を産んだ。

 

前日、突然に腰砕けになり、目の焦点が定まらなくなったキッド。

 腰麻痺(ようまひ)という山羊特有のフィラリアかと焦り、安楽死という言葉が脳裏をよぎった。

 朝、5時頃から苦しげに啼き声をあげ、私が下駄を履いて駆けつけてみると、小屋の前に横たわったキッドの後ろには、生まれたばかりの子山羊が湯気を立てて横たわっていた。

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 腰麻痺ではなかったという安堵と、子が生まれたという喜びに、思わず座り込んだ。

 口鼻についた膜を手で拭いとってやると、子山羊はぷるぷると震えながら口を開けた。

「産まれた!産まれた!!」

 外から窓を叩いて、カミさんと子ども達を起こす。

 思えば、三角櫓のある我が家では、子ども達に動物の屠殺を見せることはあっても、命が生まれ出る瞬間を見せてやることはなかった。

 パジャマ姿で急いで走ってきたカミさんと子ども達。

「かわいい~!」

 と、普段なら寝ぼけ眼の時間帯なのに、目はパッチリとまだ濡れそぼつ子山羊をとらえる。

 キッドがヨロヨロと立ち上がる。未だに焦点は定まっていない。横長の瞳孔がキョロキョロ動く。

 産道から、破水していない羊膜が小さな水風船のように垂れ下がっている。

 生まれたばかりの子を気づかう余裕もなく、何歩かよろめくように移動すると、またドサリと倒れ込む。

 「グェエェ~」

 と何回か啼くと、産道からしごくスムーズに、前脚をきっちり揃えて、ズルリともう一匹の子山羊の上半身が滑り出てきた。

 前脚をつかんで、最後の一息みと同時に引っ張り出す。

 ぬるぬるしていて暖かい産まれたての山羊の赤ちゃん。

 子ども達が歓声をあげる、

 新しい二つの命。

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 先日(8月20日)、小雨の降る中、行われた「命だらけの祭り」。

 夏の疲れと、311以降、何もかもが宙ぶらりんの様な思考回路の中、急ピッチで進めた祭りの準備作業。

 至らぬ点は多々あったが、

「これをやらないと、全てが終わってしまう気がする。」

ある日、ボソリと言った医院長の言葉が全てを物語る。

 311からどこか歯車が狂ってしまったこの世の中。火の粉をかぶる覚悟で、懸命に息を吹き続けないと消えてしまう炎があることに気づかされた。 

 田植えから一瞬の内に時間が過ぎてしまったかのように感じたのは、自分を忙しさに追い込み、無意識に目も耳も塞ごうとしていたからだ。

 その心の空洞を見透かすかのように、田んぼには、雑草がこれでもかとはびこった。

 

 多くの人が、単管とコンパネで手作りしたステージに上がって、歌ってくれた。

 大多喜から来た人、魅酒健太郎さん&ゆみさん、谷津田バス、歌姫&リンさん、そしてのりこさん率いるグンデル、YUKIさんのタールクラブ。

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 霧雨のスクリーンがもう一枚目の前にあって、ライブなのにどこか非現実的で、夢見心地だった。

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 あばらを折ったでれすけ氏は、猛然と鶏肉を焼き、煮卵とネギを載せた「変態親子丼」は飛ぶように売れた。飛ぶように売れたのに、なぜか煮卵だけは何十個も余ってしまった。

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 四季菜さんは、手慣れたもので、谷津田の悪路もものともしない。ギターを持ってステージに上がったかと思うと冷静に食べ物を売っていて、最後はシラフで帰っていった。

 うみやさんも、いつもおいしい海の香りを谷津田に届けてくれる。Aちゃんは天幕の下、天使の眠り顔を見せていた。

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 残念だったのは、去年来てくれたなかのまきこちゃんが来られなかったこと。

 彼女となら、いくら飲んでも悪酔いしないから不思議だ。

 が、新しいメンバーも来てくれた。

 東京からは、KちゃんとSちゃん。どんなことでもいやな顔一つせず、いつも一生懸命手伝ってくれる。

 ステージの照明の逆光の中、音楽に合わせて体を動かすシルエットに命の躍動を感じた。

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 キッドは、自分のおっぱいをちゅうちゅう吸って、母乳の出を良くしようとしていた。

 誰に教わるでもなく、昨日までとは全く別の存在になった「母親キッド」。

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 一瞬、

(大丈夫かなぁ?キッド、育てられるかなぁ?)

 と、疑った私を見透かすかのように、今は焦点の定まった目で、私をジッと見るキッド。

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 私達が、子山羊に触っても怒らないが、犬のオカラが近寄ってくると角を向けて威嚇する。オカラは、好奇心と母性(オスなのだが)いっぱいの眼差しで寄ってくる。子山羊にちょっかいを掛けたくて仕方がないようだった。

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 子ども達は、まだ濡れて土のついた子山羊達を抱っこしたくて仕方がない。パジャマが汚れるのもおかまいなし。

 子山羊が動く度に奇声をあげる。

 名前もすぐに決まった。

 タイ(♂)とフウ(♀)。

 台風が近づいていたからだ。

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 ラジオのニュースでは台風が最接近しているらしかったが、バカの丘には、穏やかな風が吹いていて、日差しはどこまでも明るく、新しい純白の命にキラキラと反射していた。

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2011年8月18日 (木)

BON! Onjuku Jazz Festival!!

 「物事の全てにはプラスとマイナスがある。0が『無』というだけじゃつまらない。+1と-1を足したものも『0(無)』だ。」

とは、手塚医院長の言葉。

 お昼の時間。牛舎の茶の間で、旅人の客人が二人来て、「梵(ぼん)」という言葉をめぐって、ちょっとした宗教談義になった。「宗教」談義とはいえ、突き詰めていけば、行き着くところは「科学」と同じ。とことん理詰めのアインシュタインか木の下で瞑想して仏陀になるか?方法は違えど、真理は同じ。

 それは無であると同時に、あらゆるところに存在する。

 「電気だって同じ。もともと0だったものを無理に引き剥がして+1と-1と(二つ)にしたものが、元に戻ろうとしているだけだ。宇宙のビッグバンだって同じ。対極にブラックホールがあって……云々」

 この世に生まれ出た私は、云わば+1だ。そうすると、私の片割れの-1はなんなのだろう?

 -1が死だとすれば、辻褄はあう。人は死ぬことによって、もとの場所「無」へと還っていくのだろうか?

 

 季節はお盆。

 私の祖父は、去年の春、肺炎で入院。リハビリ中に、心不全で亡くなった。生涯現役の、享年90歳だった。

 目の前の仕事に追われ、仕事仲間にも迷惑を掛けたくなくて、私は、祖父の死に目にも遭えず、葬儀にも帰郷しなかった。

 一人後れて、線香を上げに奈良に帰った。帰ってきてすぐに、あっけなくその職場はクビになった。

 

 今年のお盆も帰らない。14日に、おんじゅくジャズ・フェスティバルを牛舎で開催するからだ。半年も前から企画、準備してきた、青い卵のクリスマスイベントと並ぶビッグイベントだ。

 前日の13日は、会場の設営と清掃。

 先日、NPO法人千葉まちづくりサポートセンターで「授業」をしてきた仲間達4人が13,14の2日間、職場体験として来てくれた。

 この日を指定したのは、人手がいるのはもちろんだが、一緒に楽しんでもらいたかったからだ。

 会場の椅子並べと雑巾掛け。一人では丸一日掛かる仕事が、みんなのおかげで、ものの1時間でカタがつく。

 埃だらけだった会場に整然と椅子が並び、畳はピカピカになった。

 ポッポの丘を見学してもらい、スタッフ・バッジを準備した。午前中は客も少なく、セミの鳴き声ばかりがうるさくて、何事もない平和な夏の日が過ぎてい

 午後から、主催者のRAD MUSIC SCHOOLのみんなが、柏から到着した。

 若くて明るい光り輝く奏者達。

 古ぼけた牛舎7号は、途端に、生気に満ち溢れる演舞場へと息づき始めた。

 お盆渋滞にも関わらず、予想以上にPA機材も早く到着したので、音楽機材の設置も完了。明日を待つばかりとなった。

 景気づけに、栗原さんの友達のMさんから借りているオート三輪で、牧場内を案内した。

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 当日の朝、7時前に牛舎に到着してみると、前日からドッグランのバンガローに泊まり込んでくれたK田さん、最も遠いところから来ているはずのRさんが、プロムナードで、既に朝のお茶をしながら、出迎えてくれた。

 暑い熱い一日の始まりだ。

 こちらのスタッフは、駐車場の誘導と受付をメインに、RADのみんなには音楽に専念してもらうことにした。10時の開始までに次々とやってくるミュージシャン。スタッフ用の駐車場があっという間にいっぱいになる。RADの層の厚さを見せつけられた。

 ランチとかき氷担当の四季菜、移動カフェ&米粉マフィンのネココロ、タコスと生ビールのキッチン太陽、カイロプラクティックの長田先生と、出店者も続々と入場し、準備を始める。柏からもアート集団「POT」の3人が来て、革細工、アート的古本、ライブペインティングを始めてくれる。

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今日は、フリマの日でもある。ネコバスさん、T野さんが商品を広げる。お客さんもちらほらとやってきて、私は全身アンテナ状態。一つところにいられない。

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 7号からは常にサックスやディジュリドゥやドラムが響き、牧場中にこだまする。一つ一つをじっくり聞く暇はないのだが、どこにいても心地よい音の波が私の五感を溺れさせ、全細胞を振るわせる。

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 魅坂健太郎バンドのみんなには最大級の友情を感じる。ドッグラン・イベントの時にも来てくれた。超個性派で実力派。あいかわらずキマッている。

 Morning Childの尾崎さんは素敵だった。サックスもさることながら、その笑顔は、山本武夫氏にも描いてもらいたい現代の天女だ。思わずサインをもらった。

 ディジュリドゥに合わせたダンスでは、多くの人が胸奥に沸き起こる野性の衝動を感じたことだろう。

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 破壊力抜群のブレイクダンスもあった。畳の上でのブレイクダンスという牛舎ならではの、恐らくブレイクダンス史上初の快挙を成し遂げた。

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 フミさん、ゆうさんメインのRADオールスターズは、プレイヤーも観客もよく倒れなかったなぁと後になって思う程の興奮状態。けれども、それはどこまでも上質で、熱く揺らめく空気の中、全員が一 体となった。

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 そこで、栗原画伯からのサプライズ。

 ルパン三世の石川五右衛門、キャプテン・ハーロック、花形満の声優さん、井上真樹夫氏を案内してきてくれたのだ。

 俳優であり、詩人でもある井上さん、

 「一言、マイクでお願いしますよ~。」

との、私のワガママにも快く応えてくださった。

 「いいのかよ~!」

 何よりも驚いていたのが栗原さんだったのが、私にはビックリだった。

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 熱い真夏の日の午後に、真夏の夜の夢を見せてくれるスロー・ジャズ。

 5時からは、おなじみの御宿の歌姫が「ミネソタの卵売り」と「恋のバカンス」を歌ってくれた。

 伴奏のゆみこさんが時間ぎりぎりで来てリハの時間がほとんどなく、当人はかなり焦ったようだが、舞台では大したものだった。

 ほぼ30分で音合わせして伴奏したゆみこさんもさすがだった。

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 最後はジャム・セッションで、熱い大気の中にみんな心地よく蒸発、とろけていった。

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 今回は、チャリティ・ライブになっている。

 カンパの使い道は、RADのみんなと被災地へ行って、応援ライブをやろうというものだ。まだまだ、インフラや物資は不足しているが、一番大切なものは「本物の」娯楽ではないだろうかと思っている。

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 おんじゅくジャズ・フェスティバルでは、暑い時は、とことん熱く楽しむというスタイルが定着しそうだ。

 来年は、プロムナードにミニ・プールでも置くか…。6町歩(18000坪)の牧草地で星空ライブやるか…。

 早くも、

「来年が楽しみだ!」

と、夜の打ち上げBBQで、RADのみんなと大いに盛り上がった。 

 

 

 

 「白い光が何個か踊っているのが見えた。」

 「ここには妖精が住んでいる!」

 とは、牛舎8号オープンの日に何人かの友達から聞いた話。

 そういった類の話は、あまり信用しない私だが、うれしくなって、思わず、牛舎8号の高い梁にかけてある天女の切り絵に目をやった。

 それはホームレスの切り絵師、山本武夫さんの作品。牛舎8号オープンのわずか1週間前に、かみさんと夜遅く、高い梁に脚立に乗って取り付けたものだ。

 霊のなんのという類ものを見たことがない私は、天女を見て想像するしかない。

 今年のお盆も帰れなかったが、もしも、祖父が光となって、この場所を訪れていたら…、ジャズの光輝く音に伴われ、+1と-1の融合する調和へと帰っていけたなら、どんなにかうれしいことだろう。

 山本武夫氏の描くような天女に連れられて、0へと還っていく白く優しい光を、そっと脳裏に思い描いた。

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RAD MUSIC SCHOOL

http://www.radmusicschool.com/

出演者の詳細、画像等、ブログに近々アップされる予定です。

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2011年8月16日 (火)

モスラのサナギ

 もう一年が経ったのだなとしみじみと思った。

 ソレは、ますます冷たさと硬度を増して、核爆発を永遠に繰り返す太陽に向けて、細くて長い骸骨の指をスラリとのばす。

 アクアラインで東京湾を潜り越え、ヒートアップしたコンクリートの底なし窯へと飛び出した。熱く歪んだ大気を通して、目に入ってきたのは、東京スカイツリー。

 

 ついこの間、7歳の娘がまるまると肥太った芋虫を牛舎8号のプロムナードで見つけてきた。顔料のように鮮やかで、艶無しでありながら透けるような黄緑色。黄と紫の縦筋が斜めに7本入っていて、成り始めたゴーヤの実のような固くて縮れた尻尾がちょこんとついている。

 夏休みの自由研究にと、観察日記を始めた娘。芋虫はすっかりペットになった。名前はポテトさん

 観察を始めてものの数日ほどで、芋虫は茶色く縮んでいき、見る間にサナギになった。虫かごの中では、サナギになる環境が整っていなかったようで、ポテトさんも戸惑ったようだ。つかまる枝がなかったので、底に敷いた綿に糸を出してくっついてしまった。

綿から引きはがして、接着剤で小枝にくっつけようアドバイスを受けた娘は、ポテトさんを動かそうとして、頭をポロリと折ってしまった。

娘は、子どもにあるまじき大量の脂汗を流しておののいた。

 

(そういえば、モスラが繭を作ったのは東京タワーだったな。)

 スカイツリーが近づいてくるにつれ、予告編か何かで見た映画『モスラ』の一場面を思い出した。

ゴジラの放射能火炎をヒラリと躱す成獣モスラ、流れ弾で炎上する東京タワー。

 

玉姫公園は、相変わらずの灼熱に包まれていたが、行き交う人々の笑顔は健在だ。人見知り、初対面という言葉はここではあまり意味がない。

公園の狭い入り口でワイワイがやがや屯して、なにやらせわしげに動き回ったり、大声で喋っていた人々は、ワゴンで乗り付けた我々の為に道を開けてくれた。

今年も山谷祭りにやってきたのだ。

 

去年の夏、なかのまきこちゃんの紹介により、初めて、「谷津田再生会記念病院ヘート会議」として出店した。

灼熱の青空の下、我が家の三角櫓に50kg余りのイノシシを吊し血をどろりと抜いて、解体した肉で作った串焼きは大好評で、すぐに完売した。

 

今年の 谷津田再生会記念病院ヘート会議は、311以降てんやわんやで、出店品目を決めたのは、山谷祭りからわずか2週間前。本業(?)の田んぼ作業も完全に遅れていた。

草取りを始めたのも、7月の後半。

 田んぼは一面、コナギの緑で、水面がまったく見えない。都会では一株幾らかで売られているらしいコナギは、ここでは緑の侵略者でしかない。

アブの襲撃に脅かされ、太陽に汗も根気も絞り尽くされ、無限に続くとも思われるコナギを取り除く作業の中、今年の出店品目について、手塚医院長、でれすけ氏、中村船長と話し合った。

辛いのは、出品価格が一つ50円と決められていることだ。ほとんどの出店者はボランティアでブチ出しだ。当然といえば当然だが、ヘート会議としては、せめてガソリン代だけでも捻出したい。

とりあえず、ポッポの丘の詰め放題卵の煮卵と中村船長のイナダの刺身ということになった。

今年も参加のでれすけ氏は、一人せわしげに作業しながら終始大声で話し続けている

「あたしゃ~さ~、2年後にはブルース・ハーモニカのプロになってるからさ~…云々。」

憑かれたように、話の流れも伏線も関係なくネットで安く買ったハーモニカについて話す万年躁状態のでれすけ氏。辛い作業で無口になりがちな私達の笑顔を誘う。

 

七分袖を汗で真っ黒に染めた頑強でスタイルのいいおじさんがプロパンガスのタンクを担いできて、私達が使う業務用ガスコンロの脇に設置してくれた。

「近頃のわけぇもんは力がねえなぁ。」

と、笑顔を見せる。

愛想の良いニイちゃんが話しかけてきて前に座る。最初は調子良く話しているが、どうも泥酔していて話が見えなくなってくる。

意識しようがしまいが、ここは、ホームレスの集う町。

ついつい、あの人はホームレスかな?この人は違うのかな?と色眼鏡で見てしまう。

去年もお世話になったNPOのあうんは、スタッフとホームレスの区別がない。驚きの中、そこに、私は未来の社会と人を見た。

土地が余って、遊休農地だらけの夷隅地域と、人が余って、仕事がない都会。山野と山谷をうまく結びつけることができないだろうか?と、去年、気まぐれに思いついた。

この一年でわかったことは、それがどれくらい大変か、私は山谷やあうんの人達に失礼な位、なにもわかっていないということだ。

 

主力のでれすけ氏が祭り1週間前にアバラを2本折った。

寝返り、ゲップはもちろん、くしゃみなんかすれば、もんどり打って転げまわる程の激痛の中、責任感の強い氏は、煮卵120個をなんとか作り上げた。

祭りにも参加できないかと思われたが、私の

「いるだけでいいから。」

という懇願をなんとか聞き入れてくれた。

結局、今年の出店品目は、ポッポの丘の詰め放題卵で作った煮卵とブラジル産鶏の焼き鳥になった。

刺身は断念することにした。

 

メンバーは、去年と同じでれすけ氏、歌姫、私に加えて、谷津田再生会記念病院の医院長こと手塚さん、たべ・けんぞうさん、みん君、ほー君が加わった。

ホームレスの町に、たべ・けんぞうの鉄屑廃品オブジェ「スター・ダスト」が密やかに舞い降りた。

くるくるまわるパチンコ玉でできた宇宙(そら)の人。きらきら光る頭に、けんぞうさんや医院長、町の人々、少し離れて公安の顔が映っては消えてゆく。

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思えば、去年のいのちだらけの祭りの時、初めて、冷たいエンジンを吹かして音もなく降りてきたスターダスト。その後、牛舎8号にやってきて、今度はけんぞうさんも一緒に山谷祭りにまでやってきた。

 

手塚医院長は、いつもの大原の商店街にいる時と変わらない。おっちゃんじいちゃん相手に盛り上がり、見事なコテ捌きで鶏を焼く。

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歌姫の「恋のバカンス」は例年(?)通り、盛り上がり、

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みん君は、私の代わりに、酔っ払い相手にひたすら頭を下げ続け…、

ほー君は連帯感を持つ為に(?)、終始ヘルメット姿でいてくれた。

 

なかのまきこちゃんとSAYOKOの獣達も来てくれた。飲めば飲むほど陽気さを増す珍獣二人…いや天使達というべきか…。


 

肋骨を折ったでれすけ氏。

病院でのレントゲン写真でおまけが見つかった。

肺の3分の1を占める白い影。

「苦しくないの?今までに二人位、こういうのいたけど…、まだ苦しくないのなら、たばこやめたら、恢復するかもしれないねぇ。ま、その二人は死んじゃったんだけどね…。」

こうして、でれすけ氏は長年愛したゴールデンバットをハーモニカへと持ちかえて、2年後のプロ・デビューの為に繭に籠もる決意をしたのだった。


 

数日後、牛舎8号で、お世話係さんの悲鳴と共に、エスプレッソマシーンの下から、巨大な花びらのような生き物がひらひらと飛び出して、プロムナードの潅木の枝に羽を休めた。

色も質感も花オクラの花びらそっくり。牡鹿の角の様に立派な触覚を持った巨大な蛾。

「あれ?おまえ、ポテトさんか?そんなわけ…ないか…。」

思わず話しかけた。

無事に孵化を終え、見事に生まれ変わった成獣モスラ。

 しばらくすると、牛舎8号の灼熱の銀色に輝く屋根の上、遥か高みへとフラフラと飛んでいった。

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2011年7月26日 (火)

子ども縁日

 自ら死のうとしたことはなかったが、死んでもいいと思ったことはあった。

 正確には、本当にしたいことをする為には、死んでも仕方がないと思っていた。

 カンボジアの外国人立ち入り禁止区域に入った時や、外国人退去命令の出ていたアフガニスタンに入った時は、事実を知るためには、死という最大のリスクを負ってでも、自分自身の目で見るしかないと思っていた。

 

 随分と前に撮ったアフガンでの写真が白いスクリーンに映し出された。

 見えない銃弾が岩陰からパパパパンッと飛んでくる。どことなく緊張感のない銃撃戦の礫漠を抜けた後、パンク修理に追われる乗合バス。後部ドアに大きく書かれた「東京ちんみ」。

 22名の年齢も性格も趣味も経歴も違う人々が、喰いついてくるのを感じた。ツカミはバッチリだ。

 「まちづくり」NPO代表のKさんが、ハローワークの新しいカリキュラムで職業人講話の講師としての仕事を、手塚さんを通じて私にオファーしてくれた。

 牛舎8号やおんじゅくオーガニックの活動を話してくれと言うのだ。

 一日限り。50分×3コマの「授業」。

 手塚さんはともかく、私はどちらかというとハローワークにお世話になりっ放しの人間だ。人様に教えるような立場ではない。

 躊躇したが、少なくとも、手塚さんの背中を見てきた私だ。今しかできないその申し出をありがたく受けることにした。

 

 いざ、始めてみると、みんなの反応が心地よくて、私の「自己紹介」はどんどん脱線していった。

 カンボジアの立入禁止区域は、実はルビーと香木の産地で、マフィアがそれらを守る為に軍隊を使って村人を追い出したり殺したりしているという事実。

 そのパイリンという村では、雨の後、地面からルビーの原石が涌いてくる。ほとんどの村人がルビーの原石を手の平いっぱい持っているにもかかわらず、クメール・ルージュの圧政と厳罰により、扉に鍵を掛ける必要がまったくないくらい治安が良い。

 世界3大地雷地帯の二つがあるのが、アフガンとカンボジア(もう一つは旧ユーゴ)。一本のハケを手に、腹ばいで地雷を探し、信管を抜いて不発弾にするdeminer(ディマイナー)という「職業」がある。地雷の金属ケースを屑鉄屋に売って生計をたてる。金属ケースには無数の縦横縞が入っている。爆発の際、粉々に飛び散り、生き物を傷つける為だ。その金属ケースはわずか1ドルにしかならない。

 話すつもりもなかったし、忘れていたことが、次から次へと頭の隅から涌いてきて、私の「自己紹介」はひどく長いものになった。

 その後、たっぷりと時間を掛けて、みんなにも自己紹介してもらった。

 50分1コマと念を押されていたのに、結局、一コマ目は80分位掛かって終了。

 どちらが先生だか生徒だかわからないようなすごい面子で、最初は試されているように感じていた彼らの視線が、明るくてあたたかいものになった。

 

 その3日後、牛舎8号で子ども縁日が行われた。

 蛙の企画・主催で多くのママさん、仲間達が協力してくれた。

 当日は、あいにくの雨。

 が、蛙と子どもは雨が大好きだ。

 「せっかくの浴衣がびしょ濡れになる。」

 「放射能があるから。」

 と、やきもきしているのは人間の大人だけだ。

 金魚すくい、かたぬき、お菓子すくい、輪投げ、宝つり、ヨーヨーつり、ラッキーナンバー・フィッシング…。

 屋台や移動カフェもある。

 水たまりなんか気にしない。空からの放射能も気にしない。

 子ども達は無意味な奇声をあげて駆け回る。

 「もう一回やりたい!」

 と駄々をこねて泣く子ども。

 ただ、純粋に楽しむだけのイベント。

 こども達の喜ぶ姿が見たい、その一心だけで一生懸命な大人達。

 雨は昼頃には止んだ。

 大きな虹が空にかかっていたに違いないが、みんな子ども達の笑顔を追うのに必死で、空を見上げる余裕なんてなかった。

 

 事実を知るためには、自分自身の目で見るしかない。

 それは真実だと今でも思う。

 だが、その為に死んでも仕方がないとは思わなくなった。

 自分より大切な命ができたからだ。

 いつの間にか、私は、ただ楽しむということを忘れてしまっていた。

 常に何か見えない敵を求めて、そこに自分自身の存在価値を見出そうとして…、追っていたのは、鬼と化した自分の影。

 全ての終わりが近いうちに来る。巷でまことしやかに囁かれる「噂」。

 懸命に、泳ぎ方もわからずに私の後を追ってくる子ども達。

 そこには常に笑顔があってほしい。

 それを守る為なら、ひょっとして、死んでも仕方がないのかも知れない。

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2011年7月15日 (金)

4LEGS オープンイベント

 この世は、一瞬一瞬が、選択肢だという考え方がある。


 常に明滅していて、物質だと思っている自分自身も世界そのものも、実は99%が空洞で、最後の最後に見つけた物質も、実はちっぽけな振動でしかなく…物質なんてものはそもそも存在していない。それら無限の波が重なり合って初めて映写される幻のような人生。

 その無限の重なりは、更に無限に重なり合う。

 それを選択できるのは自分だけ。

 

 ちっぽけな自分の、今この一瞬の選択で、大いなるもの全てが変わる。

 言い換えれば、世界なんてものは、ちっぽけな自分自身の脳が創り出した偉大な錯覚に過ぎない。

 そう考え、いや、実感して、私が感じたのは絶望ではなく、途方もなく強大な希望だった。

 

 因果応報という言葉がある。全ては自分自身が創り出した原因と結果だと。

 けれども、カンボジアで足を吹き飛ばされた子ども達はどうなんだろう?

 理由もなく、苦しみ、死んでいく人達のなんと多いことだろう。

 対して、着るもの、食べるもの、住むところに不自由もせず、不平不満を言う人々。

 どちらが天国に近いのだろう?

 

 重労働や貧困が人々を不幸にするわけではない。

 親友が言っていた。お金持ちの知り合いで幸せそうな人を見たことがない。


 答えなんてどこにもない。

 ただ答えを探して歩き続けることだけが正解だ。


 なかのまきこちゃんは、決して、雄弁ではない。

 説教じみたことを言ったことなど一度もない。

 けれども、彼女の生き方が、多くのことを気づかせてくれる。

 私にとっては、自ら羽を折った天使だ。

 いつもちっぽけで、物質に囚われた私の目を醒まさせてくれる。


 なかのまきこちゃん、魅酒健太郎さん、これ以上に4legsのオープンイベントにふさわしい二人はいない。

 偶然ではない、これら無限の波の重なりに、最大の感謝を捧げたい。

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