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2015年6月26日 (金)

Albatros

 船底にぽっかりと空いた大きな穴から入り込む海水は、乗組員が汲み出すより早く船を沈めにかかっているように見えた。

 実際、船室の大半は海水で満たされ、沈み込んだ船体の進む速度は恐ろしくのろまだった。

 終わりそうで終わらない永遠の航海。

しかしながら、甲板にはまだ日が燦々と降り注いで水しぶきをキラキラと輝かせていたし、風は帆をいっぱいにふくらませて、潮風に湿りがちな衣類を気持ちよく乾かしてくれた。

船底に空いた大穴の周りには、鯨の腹のように、ギザギザ火山のフジツボがびっしりとしがみつき、竜宮城のように色鮮やかなイソギンチャクや海草がひらひらと取りついて、海水の侵入する速度を少しは和らげているように見えた。

 甲板から船室へ続くハッチを開け、穴の空いたバケツで気休めに船内の海水を汲み出す。

そこは既に生簀さながら、船底の大穴から入り込んだ海の生き物達…優雅にヒレをくねらせるものから、異形の海の魑魅魍魎まで…が我が物顔で泳ぎまわり、時折、水中で、ヌルリとした目玉が日の光にキラリと光る。

 水面下へ降りていく階段に斜めに光が差し込んで、その奥の扉をゆらゆらと揺らしている。

 長年使われてきたはずのその扉は、牧草のように生い茂った海藻にびっしりと覆われて、壁との区別がなくなっている。

 居住スペースがすっかり浸水してしまったので、海上を流れてくる流木を拾い集めて甲板の上に小さな家を建てた。

 流木だけではなく、海には人の作り出すありとあらゆる「ゴミ」が流れてきた。

そのおかげで、小さな甲板上の家には、台所も洗面所も、昼寝用のハンモックから窓際の観葉植物まで生活に必要な全てのものがあった。

しかしながら、そこは海の上。年に数回、気まぐれな大嵐が、この「航海する沈没船」を通過する。

遠い島影を探すのにも疲れ、甲板の上に寝そべり、柔らかい海風に吹かれる生活もつかの間、みるみるうちに黒雲が空を覆い始めたかと思うと、猛烈な豪雨と突風が船を襲う。

黒い海と灰色の空の境界がわからなくなるくらい、何日も凶暴で残酷な波と風に翻弄されるものの、船は半ば海に沈み込んでいるのが幸い、どうにか、いつも持ちこたえることができる。

が、流木の家は、跡形もなく吹き飛ばされてしまう。

建てては壊され、また流木を拾い集めてはまた建てる。その繰り返し。

嵐の後の、きれいに洗われて水に濡れ光る甲板。

嵐の際、デス・マスト(帆柱が折れる)を避けるため、ナイフで切ったロープを結びなおす。風に切り裂かれた帆布は、それでも帆桁に取り付いて、少しでも船に推進力を与えようと再び真っ白に膨らんだ。

嵐の余韻を残しつつ、静まりかえった海は無限の広がりを見せている。

水平線の上に見た一羽のアホウドリ。

その海鳥は、透明な風に翼を乗せて、海よりも広い無限の空を自由に舞っている。

あのアホウドリのように、自由に空を飛んでみたい。

人からどのように呼ばれようと。

流木は、いつでも、海の上を流れてくる。

今度は、家ではなく、小さな飛行機をつくろう。

流木で骨組みを作り、切り裂かれた帆布で翼を張って。

いつか、甲板から飛び立てる。

その日を夢見て。

Images

とある船の上で見た白昼夢。

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